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福岡地方裁判所 昭和50年(行ウ)6号 判決

福岡市西区高取二丁目一六-二三

原告

永弘開発株式会社

右代表者代表取締役

吉田竹夫

右訴訟代理人弁護士

森田莞一

福岡市西区百道一丁目五-二三

被告

西福岡税務署長

被告

小野貞人

右指定代理人

布村重成

大神哲成

中村程寧

江崎博幸

米倉実

中島享

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1. 原告の昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日に至る事業年度分の法人税について、被告が昭和四七年六月二八日付でなした更正処分中、所得金額八三八万九三一五円、税額二八二万〇五〇〇円を超える部分を取消す。

2. 原告の右事業年度分の法人税について、被告が昭和五〇年二月三日付でなした過少申告加算税二八万四五〇〇円の賦課処分中、一四万一〇〇〇円を越える部分を取消す。

3. 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1. 被告は原告の昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日に至る事業年度(以下本件事業年度という。)の法人税申告に対し、昭和四七年六月二八日付で次のとおり更正処分をなした。

2. 原告は右処分を不服として昭和四七年八月二八日付で被告に対し異議申立をなしたところ、被告は昭和四七年一一月二七日付で次のとおり原処分の一部を取消す決定をなした。

3. 原告は右異議決定に対してもなお不服ありとして昭和四七年一二月二六日付で福岡国税不服審判所に対し審査請求をなした。

右審判所は原処分中重加算税の賦課のみを取消し、その余の請求を棄却するとの裁決を行い、右裁決書は昭和四九年一二月二八日原告に送達された。

4. 右裁決により重加算税が取消されたため、被告は原告に対し、昭和五〇年二月三日付で二八万四五〇〇円の過少申告加算税の賦課処分を行つた。

5. よつて、原処分は所得金額一六一九万九八三二円、税額五六九万〇六〇〇円及び過少申告加算税二八万四五〇〇円となつたのであるが、右所得金額中七八一万〇五一七円は訴外大野町乙金土地区画整理組合(以下単に組合という。)がその所有する保留地一七一三坪(以下、本件係争地という。)を売却、処分した得た同組合の所得である。従つて、原処分の所得金額一六一九万九八三二円中、右七八一万〇五一七円に対応する法人税額二八七万〇一〇〇円及び過少申告加算税一四万三五〇〇円は課税の客体を誤つた違法なものである。

二  請求原因に対する認否

1. 請求原因1ないし4の事実は全て認める。

2. 請求原因5の事実については、裁決により所得金額が一六一九万九八三二円、税額が五六九万〇六〇〇円、過少申告加算税が二八万四五〇〇円となつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  被告の主張

1. 原告の本件事業年度分の法人税確定申告、更正処分及び決定、裁決額の内訳は別紙一覧表記載のとおりであつて、被告の主張は同表決定・裁決額欄記載のとおりである。

2. なお、前記一覧表の土地売上高の科目には本件係争地の売却代金二五〇六万五七〇〇円が含まれているが、右売却代金は次に述べる理由により原告の収入と目されるべきである。

即ち、組合は昭和四二年二月二七日までに旭不動産株式会社(原告の前社名。以下、旭不動産という。)に対して総額一八〇四万三一三四円の債権を有していたので、同日右債権の担保として本件係争地を取得した上これを昭和四五年六月一日他の組合保留地とともに大野町に五六一四万六四一〇円(合計坪数三三五二坪)で売却処分し、もつて本件係争地の売却代金額分を同月三日右債権(同債権は同日までに総額二五〇六万五七〇〇円となつている。)に充当して清算したものである。従つて、外形的には本件係争地は前記昭和四二年二月二七日の組合の総会で組合の保留地として追加取得する旨の決議がなされ、同年四月一日には他の保留地と共に組合の所有権保存の登記手続がなされているが、その実は右に述べたとおり、組合は原告に対して有していた債権の担保として本件係争地の所有名義を有していたに過ぎないから、これを売却することにより清算された二五〇六万五七〇〇円を原告の収入として課税したことには何らの違法もない。

四  被告の主張に対する認否

1. 被告の主張1の事実に対する原告の主張は別紙一覧表原告主張額欄記載のとおりである。

2. 被告の主張2の事実については、組合が昭和四二年二月二七日までに旭不動産に対して一八〇四万三一三四円の債権を有していたことは否認し、その余の事実は知らない。

原告は組合設立の際、それ以前の経緯から、組合との間でその保留地は全て原告が引受け、その代わり組合の事業は全部原告が行うという契約を締結していたので、この契約に基づいて組合事業費の不足を補うものとして本件係争地を組合に提供し、本件争地は昭和四二年二月二七日の組合の総会決議で組合保留地とすることに決定され、その旨の登記手続も経て適法に組合の所有地となつたものである。従つて、その売却代金二五〇六万五七〇〇円は組合の所得となるものというべく、この間の事情には経済人の行動として何ら不自然な点も存しない以上、右保留地提供を実質的には担保の提供に過ぎないとする被告の主張には事実の誤認若しくは実質課税の限界を越える違法が存する。

第三証拠

一  原告

1. 甲第一ないし第一一号証

2. 証人武末貢、同佐田市内(第一、二回)

3. 乙第五号証及び第二二号証の成立は認めるがその余の乙号各証の成立は不知である。

二  被告

1. 乙第一、二号証、第三号証の一、二、第四ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし八、第一二、一三号証、第一四ないし第一六号証の各一、二、第一七ないし第二二号証

2. 証人佐田市内(第一回)、同荒蒔秀蔵、同山本茂幸、同小柳淳一郎、同飯田勝美

3. 甲第一ないし第五号証の成立は認め、第六ないし第一一号証の成立は不知である。

理由

一  請求原因1ないし4の各事実は当事者間に争いがなく、被告主張1の事実についても原告の本件事業年度における土地売上高、土地売上原価及び営業外費用合計額の点を除いては当事者間に争いがない。そして、右土地売上原価及び営業外費用合計額はいずれも裁決の基礎となつた被告主張額の方が原告のそれを上回つているからその限りでは原告に不服はないものといえる。もつとも、原告の右各科目についての主張額は本件係争地に関連する費用を計上していないのではないかと思われるが、そうであるとしても原告がその所得を過大に評価されたと主張する七八一万〇五一七円という金額が、本件係争地の売買代金二五〇六万五七〇〇円から右各科目についての被告主張額と原告主張額との差額を控除した額と一致していることからすれば、結局右差額、土地売上原価にあつては七三五万〇四八三円、営業外費用にあつては九九〇万四七〇〇円が本件係争地に関する費用であること、換言すれば本件係争地売却代金が原告の所得であると仮定した場合の右各科目は被告主張額のとおりであることについては当事者間に争いがないものと認められる。

二  そこで残る土地売上高について検討するに、当事者双方の主張自体から明らかなように、この点についても本件係争地の売却代金二五〇六万五七〇〇円を除くその余の金額については当事者間に争いがないから、本件における実質的争点は結局右売却代金二五〇六万五七〇〇円(費用を控除して七八一万〇五一七円)が原告の所得と目されるべきか否かという一点に帰着するものと解される。

よつて、右係争地の売却代金の帰属についてみるに、成立に争いのない乙第五号証、証人荒蒔秀蔵の証言により成立の認められる乙第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四号証、同第一〇号証、同第一五、一六号証の各一、二、同第一七ないし第一九号証、証人佐田市内の証言(第一回)により成立の認められる乙第六号証、同第一三号証、証人小柳淳一郎の証言により成立の認められる乙第二〇、二一号証及び証人武末貢、同佐田市内(第一、二回)、同荒蒔秀蔵、同山本茂幸、同小柳淳一郎の各証言並びに弁論の全趣旨によると、本件係争地の売却に至る経緯として次の1ないし5の事実が認められ、本件中にはこれを左右するに足りる証拠は存しない。

即ち、

1. 本件係争地を含む大野町乙金地区については、昭和三六年ころから旭不動産が約二万八〇〇〇坪の土地を購入して宅地造成事業を行つていたのであるが、まもなく同社の資金繰りが悪化しその完成が困難となつたので同社の代表者であつた訴外元木守(以下元木という。)は訴外財団法人福岡土地区画整理協会(以下、協会という。)の理事長である甥の佐田市内(以下佐田という。)と相談し、右旭不動産の所有地を主体とする一画を施行地区とする土地区画整理組合を設立し、土地区画整理法にいう組合施行として前記造成事業を完成することにしたこと。

2. そこで、大野町乙金土地区画整理組合が設立され(認可昭和三七年六月一九日)、同年八月二一日の第一回理事会で元木が理事長に、佐田が副理事長に就任し、その席上において、旭不動産の代表者でもあつた元木から、組合が保留地として予定している一万一四五〇坪の土地を一括して旭不動産に坪当り四五〇〇円で売却して貰えば同社において、自己の自担のもとに責任をもつて組合の区画整理事業を完成させる旨の申出があるので、これに応じてはどうかという提案がなされ、右提案は、同日の理事会、ついで後日の組合総会において承認され、その旨の約定が組合と旭不動産との間に成立したこと(右約定による原告の義務を以下工事完成義務という。)。

3. 右により、旭不動産は保留地を他に売却し、その代金をもつて右事業資金に充てようとしたのであるが、右保留地の処分が全くできず、元木は個人名義で協会から八五〇万円、訴外三宅から佐田の保証のもとに二〇〇万円を借受け、これを当座の事業資金として運用するとともに不足分についてはその都度協会から立替払をしてもらつて前記事業を進めていたこと。しかし、依然資金繰りの見込がたたないことと元木個人の健康上の理由から旭不動産の事業続行は事実上不可能となつたため、昭和三八年一二月八日の組合理事会において新たに佐田が理事長となつて、以後組合自らの手で区画整理事業を行うことにし、旭不動産に売却していた保留地を取り戻すとともに元木名義の右債務についてはそれまでの工事費であることから一部組合設立前の債務も含めて組合がこれを引受けて弁済することにした。

4. しかるに、昭和四〇年に至るも組合の保留地は全く処分できず、組合は主として協会及び銀行からの借入れによって事業を続けていたが、事業の長期化及び土砂くずれによる付近農地の補償並びに前記元木名義の債務の金利が意外の多額となったことにより当初予定の一万一四五〇坪の保留地の処分代金のみでは組合の事業費に不足を来すことが明らかとなつたので、組合としては設立時の前記2の契約をたてにとつて不足分は旭不動産が負担するよう求め、同社はこれを承諾し、本件係争地を組合に提供したこと((昭和四〇年七月二六日の組合総会での佐田理事長の発言では、「不足分に相当する土地を旭不動産より保留地して留保するに至つた。」と抽象的であるが、昭和四二年二月二七日の総会での発言は旭不動産から一七一三坪(本件係争地)確保した旨明確であつて、昭和四三年四月二六日の理事会における元木の発言も不足分を負担すること自体は了承しているように認められることからすれば、その間の具体的事情、例えば本件で争いとなつているように右土地が単に組合の事業費の不足分を担保するものとして提供されたのか、又はより具体的に組合が元木名義の債務を引受けたことにより取得した求償債権を担保するとの趣旨であつたのか若しくは担保ということでなく工事完成義務から生じるであろう債務に充当するものとして確定的に譲渡されたのかという点については証拠上直接これを明確にし得るものは存しない(この点については後で検討する。)が、少くとも右に述べたことからして旭不動産がかかる負担を承認したことは認められる。))。このような事情から組合は昭和四二年二月二七日の総会で旭不動産の換地予定地の中から一七一三坪(本件係争地)を組合の保留地として留保することを決定し、同年三月一八日その旨の設計変更の認可を受け、同年四月一日組合の所有地として所有権保存の登記手続をなしたこと。

5. その後、昭和四五年六月一日本件係争地は組合の他の保留地とともに(合計一万〇九一八・一三平方メートル)五六一四万六四一〇円で訴外大野町に売却され、その代金の一部でもつて組合が協会に対して債務引受(一部支払済)したことにより組合が旭不動産に対して有するに至つた前記元木名義の債務元利合計二五〇六万五七〇〇円が清算されていること。現在組合は残り五五二坪の保留地を有しているがこれを適正処分して付近農地の補償費用に充当することにより、ほぼ赤字を出すことなく本件区画整理事業を完了できる見込みであること。

三  そこで、以上の経緯に鑑みて、本件係争地が昭和四二年二月二七日組合の総会においてその保留地とされた趣旨について検討するに、なるほど右土地が総会という場で保留地と決議され、その旨の認可を得、所有権保存の登記手続まで完了しているというこれら外形的事実に徴すれば、同土地は原告の主張するように右時点で確定的に組合の所有となつたものと解せられないでもない。しかし、原告(旭不動産)と組合との権利、義務関係について考えてみるに、前述のとおり原告は組合に対して、その所有する一万一四五〇坪の保留地の処分代金でもつて同組合の事業費一切を賄い、仮にこれに不足が生じた場合にはその不足分は同社が負担するとの義務を負つていたのであつて、その義務内容からすれば右事業の完成までにはなお相当の日時を要すると見込まれ、組合の事業費の総額や保留地の処分代金さえも未確定の状態である右昭和四二年初期の段階で、組合にとつて本件係争地を確定的に取得しなければならない合理性若しくは必然性というものは認め難く、ましてや原告の主張に沿う証人佐田市内の証言(第一、二回)のように、本件係争地を組合が取得することにより原告の右工事完成義務までも免除して全ての権利義務関係を清算してしまうということは組合にとつてあまりに危険が大きく、事実そのようなことが組合内において議論されたような証拠は全く存しないのであるから、右に述べたことからすれば原告の主張は多少不自然たるの感を免かれず、右事情に加えて前掲各証拠及び証人佐田市内の証言(第二回)によつて成立の認められる甲第六号証、乙第七号証、証人荒蒔秀蔵の証言によつて成立の認められる乙第一一号証の一ないし八、証人飯田勝美の証言によつて成立の認められる乙第一二号証並びに弁論の全趣旨によれば、(一)本件係争地が確定的に組合の所有となつたものとすれば、組合としては前記元木名義の債務の支払については必ずしも本件係争地の売却代金でもつてする必要はないにもかかわらず昭和四二年五月三一日に七二〇万六六三四円(協会の立替金)を支払つた他は全て本件係争地の売却代金でもつて支払われていること、又右七二〇万六六三四円は新たに組合の原告に対する債権として計上され、組合と原告との間では本件係争地の売却代金で清算されていること、組合が元木名義の債務は工事費であるとしてこれを引受けたにしても、右のような組合会計帳簿上の処理、清算の方式及び組合の収支精算見込書の仕訳の方法からすれば、右債務はやはり組合の他の事業費とは別異の性格を有するものと理解されていたと窺われること、(二)前述のとおり組合が本件係争地を保留地としたことによつて組合が原告の工事完成義務を免除、軽減したこと若しくは債権、債務関係の清算が行われたと窺われる証拠は存せず、かえつて昭和四三年四月二六日の組合理事会の元木の発言及び同年五月一三日付元木名義の誓約書は、いずれも原告の債務が依然存続していることを前提としているものと認められること、又右理事会において佐田も本件係争地を含めて「元木がいくらで保留地を処分しても協会が関係する債務解決さえしてもらえればいい。」旨発言していること、(三)元木と佐田との間ではかなり個人的情宜に基づいた協会資金の運用が行われており、前記理事会での両者の発言からすれば昭和四二、三年ころには佐田は協会理事長としての立場上、協会から原告あるいは組合への貸金を確実に回収する必要性を感じていたと認められること、(四)本件係争地売却代金による元木名義の債務の清算関係について、佐田はその詳細を元木に説明し、原告宛右清算による余剰は存しない旨の通知を出していること、(五)組合及び協会は理事長である佐田名義で昭和四六年三月二七日付(甲第五号証)及び昭和四七年一一月一日付(乙第八号証)で福岡税務署長宛に本件係争地は組合が担保として預つたものである旨記載した文書を提出していること。の以上(一)ないし(五)の事実が認められ、証人佐田市内の証言(第一、二回)中右認定に反する部分は前記甲第六号証、乙第一二号証、同第二一号証及び証人飯田勝美の証言に照らして措信し難く、他に右認定事実を左右するに足りる証拠は存しない。

以上の事実を総合してみると、結局本件係争地は基本的には原告の工事完成義務に基き、最終的には組合の事業費全体と精算されることが予定されていたものでありながら右提供の段階では差当り事業費の不足分と見込まれる元木名義の債務(組合が債務引受をしたことにより、原告が組合に対して負うに至つた債務。原告や組合においてかかる債権、債務関係を明確に意識していたか否か疑問のあるところであるが、原告の工事完成義務からすれば究極的には右関係を原告の債務として把握することは可能であり、仮に本件係争地が右提供時には未確定な状態であつた右工事完成義務の担保として提供されたものであつてもこの点の差異は後記結論に影響を及ぼすものではない。)を具体的に担保するものとして組合が取得していたものと認めるのが最も合理的であつて、前記原告の主張に沿う事実のみでは右認定を覆すに足りず、これに反する証人佐田市内の証言(第一、二回)部分及び甲第八ないし第一〇号証は右に述べたと同様の理由により措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

してみると、原告は担保として提供した本件係争地が売却されたことにより、その代金で組合への債務二五〇六万五七〇〇円と相殺したことになるから、右二五〇六万五七〇〇円を原告の所得とした処分には違法な点はなく、前記当事者間に争いのない事実と合わせると、結局本件課税処分は適法なものといわなければならず、今まで述べてきた理由により本件係争地提供の事実が、その実質において担保であると認定される以上原告の主張は採用の限りではない。

四  よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 美山和義 裁判官 綱脇和久 裁判官 河村吉晃)

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